てくてく てくてく
コンビニで用事を済ませたあと、家とは逆方向へ向かって歩き始めた。
家には帰りたくなかった。
むしゃくしゃして心がどうにも落ち着かないから。
てくてくてくてく歩いて
すーはーすーはー深呼吸して
たったったったっと、テンポよく歩いた。
公園が近づいてくると 甲虫のような 少し湿った土の匂いがしてきた。空を見上げると雲の隙間からお月さまがみえる。
ひんやりした夜風が心にしみる
吉祥寺は平日でもまっすぐ歩けないほど人が集まる町だが、夜は早い。井の頭公園は花見客がほぼ撤収したあとのようで、しずかに桜の下で酒を飲んで語り合っているお行儀の良い社会人グループがちらほら。そこここのベンチにすわるカップル。遠くから微かに歓声が聞こえるまだ勢いの残っている学生らしきグループ。
雑多で自由で落ち着く。
都会の夜の公園はいい。
虫だと思ってびくっとしたら、桜の花びらがスマホのこの画面にはらりと落ちてきた。
じつは恋をしていた。
それが終わった夜でもあった。
静かで優しくてあたたかで、春の陽射しのような時間だった。
夢のようだった。
でもいい加減 終わりにしよう。
来週早々から新天地で働くことにしよう。
がんばれ、自分。
人生悪いことばかりじゃない。
そう信じたい。
夜風に少しだけ救われた。