ヒーラー
母の入院の知らせを聞いた翌朝、スーツケースに着替えとパソコン、本を詰め込み、急いで東京駅へ向かいました。新幹線を降りた後、在来線の待ち時間ももどかしく、タクシーで入院先の病院へ向かいました。
母の入院先は、そのむかし母と父が勤務していた小さな病院。小学生の頃から私はそこへ何度も通っているので、顔見知りの病院関係者も多くいらっしゃいます。
ホールでエレベーターを待っていたところ、当時からずっとその病院で働いているB先生とばったり会いました。
私が相当深刻な顔をしていたんだと思います。
「入院しないとお母さんは○○ちゃんに会えないから、○○ちゃんに会いたくて、今回入院したんだ、くらいに考えてね、治していけばいいよ(○○は私の名前)。」
そう先生はおっしゃいました。
その瞬間、気持ちがふっと緩みました。そして先生の心遣いをとても暖かく感じました。
実は私はこの先生が近頃ずっと苦手でした。
「結婚したの?お子さんは?」はまだいいほう。「ずいぶん貫禄が出てきたねー」「太った?」と、最近ころころに太った私をズケズケ系の物言いでチクリと刺激するのです。
刺された腹いせに「この先生、腕はいいのか?良い先生なの!?」と、八つ当たり気味に思ったこともありました。
でも、良い先生でした。
今回のことでしみじみそう感じました。
いつ治るのか。
いつ退院できるのか。
本当に治るのか。
この病院でいいのか。
押しつぶされそうなほどパンパンに膨れ上がった不安にぷしゅっと穴を開けて、ほどよい大きさにしてくれました。
ちょっと大げさですが、ヒーラーってこういう人のことかなと思いました。